【14歳】中学生を描いた青春映画【おすすめ/邦画/感想レビュー】

基本情報

時間:114分
公開:2007年
分類:青春 ヒューマン

あらすじ

14歳の時に教師を彫刻刀で刺す事件を起こした『深津綾』は、26歳になり中学教師になっていた。
深津は生徒の自宅を訪れた帰り、中学時代の同級生で事件現場に居合わせた『杉野浩一』と再会する。
杉野は測量士として働きながら、深津が勤める学校の生徒にピアノを教えていた。

ポイント(ネタバレあり)

長回し

本作における長回しは、何かが起きる前後に時間を置いています。

例えば、バス停に歩いてきた杉野が走ってきた中学生にぶつかられるシーン。
事前に時間を置くことで、平穏の中に急にやってきた衝撃を感じるし、事後に時間を置くことで、衝撃がなかったかのように街は平然としていて謝られることも心配されることもなくぶつかられた自分だけが残った虚しさを感じます。

自転車に乗った中学生が後ろから同級生を木の棒で殴るシーンも同様です(ただこっちは、殴る方が視点になっている)
中学生が自転車を漕いでターゲットのもとへと向かう様子をたっぷり長回しで映すことで、狂気は日常の中に潜んでいて日常と地続きであることを感じさせられます。
そのあと別のシーンを挟んでから映る、地面に木屑が散らばっているシーンは、一見ただの木屑なんだけど、どうしてそこに木屑が散らばってるかを知っている視聴者からするとそれは暴行の跡で、悲惨なものに見えます。

雑音

音響で非常に印象的なのが、雑音です。

深津と知恵が廊下で話しているシーンでは、深津が知恵に「勉強はバレエと違って遊びじゃないから」と言って去っていくところで、ヘリコプターのような重低音が鳴ります。
これは、知恵の怒りを表現していると思います。

知恵が道菜に髪を切った方が良いと言っているシーンでは、途中でモスキート音のような高音が流れて、知恵の声は消えます。
その際、喋っている知恵の口元にだけ光を当てているのも印象的です。
このシーンは、知恵の嫌味な言葉が道菜にとっていかに不快で耳障りかを、音響と映像で表現していると思います。

演技

演技で注目したいのが、杉野役の演技です。

一番関心したのは、雨宮にピアノ指導をしているときに笑ってしまうシーン。
笑う演技は一番と言っていいくらい芝居臭くなりやすい、難しい演技だと思います。
しかも、こみ上げてきた笑いがそのまま表に出る笑いではなく、こみ上げてきた笑いを抑えようとするけど抑えられずに表に出てきてしまう笑いなので、余計に難しいと思いますが、それがこのシーンでは見事に演じられています。

もう一つ注目したいのが、警察署に駆け付けた深津に杉野が怒るシーン。
最初は怒りを抑えて「改造拳銃だよ、撃たれちゃってたら」と呟くんだけど、結局抑えられず「撃たれちゃってたらどうすんだよ!」と怒鳴り、「冗談じゃないよ」と再び呟きます。
普段冷静な杉野が怒ったらこうなるに違いないと思わせるリアリティで、本当に演技なのかと疑いたくなるほどです。

大人と子ども

本作は、相容れない大人と子どもが描かれています。

同じことをしてしまう

杉野は自分が中学生の時にピアノの才能を否定されて傷ついたのに、今度が自分が中学生に同じことをしてしまいます。

深津も同じです。
中学時代、深津は教師に「飼育小屋燃えちゃったの、先生深津さんのせいだと思わないけど、そう思っちゃう先生だっているわけだから」と言われました。
これって、深津の味方をしているようでしてないですよね。
そして教師になった深津も、バレエをやりたがる生徒の味方であるような言動をしておきながら、「勉強はバレエと違って遊びじゃないから」と突き放す言葉を生徒に向けてしまいます。

14歳

14歳という年齢は、タイトルにもなっているように大きなポイントだと思います。

高校生は子どもというよりも若者だけど14歳はギリギリ子どもの年齢だと思います。
大人から子どもという認識を持たれるので壁はできやすいのに、純粋な年齢ではないので本心は見えにくい。
大人と最も距離感がある年頃なのかもしれません。

中学生は勉強に追われる一方で自由は少なく、特にストレスが溜まりやすい年頃です。
彼らの暴力には、そのストレスを感じます。

暴力

本作を見ると、暴力を何故するべきではないのかを理解できます。

連鎖

終盤、杉野は雨宮に「お前らが誰かを傷付けるなら、俺はお前らを傷付けるぞ」と言います。
これは大人と子どもに限らず、あらゆる関係に言えることだと思います。
傷付けられたくないなら、まずは傷付けることをやめないといけません。

記憶

深津は飼育小屋を燃やした記憶や教師を彫刻刀で刺した記憶に苦しんでいます。
杉野の同僚も、中学時代に殴っていた同級生のことを一生忘れられないのではないかと恐れています。
そして本作で暴力を振るった人々は、これからそのことで苦しむことになるはず。

暴力は連鎖や記憶によって、結果的に自分を傷付けるわけです。