はじめに
映画『街の上で』について、語りたいポイントごとに感想を書いています。
ポイント
言葉遣い
敬語
青が浮気した雪と揉めるシーン。
青は「いやいや、今あなたの気持ちは聞いてないです」と突然敬語を使います。
敬語は距離感のある相手に使うことが多いので、普段タメ口で話している雪に敬語を使うことは、「あなたを軽蔑します」と言わんばかりに雪を突き放す効果を発揮すると思います。
雪とは別れたくないけど、浮気された上にフラれるのが理不尽なので、その不満をぶつけたい。
そんな時にあえて敬語を使うことで、「それくらい自分は怒っている」という感情を示すと同時に、遠回しに相手を非難することができるわけです。
敬語は奥が深い。
関西弁
青とイハが家で会話しているシーンで、イハの「あかんの?」に対して、青は「あかんくないけど」と返します。
青が標準語を使う人だということを考えると、「あかんくないけど」ではなく「だめじゃないけど」の方が適しているように思えるけど、実際は違う。
イメージして欲しいんですけど、「あかんの?」に「だめじゃないけど」と返すのは、違和感がありませんか?
二つの台詞に繋がりを感じられないんですよね。
一方で、イハの「あかんの?」を利用した「あかんくないけど」という返しは、二つに繋がりを感じられて自然です。
荒川青
青という人は一見パッとしないけど、実は凄く魅力的な人だなと思います。
まず、何かとオシャレです。
古着屋で働いていて客がいない時は読書してる、これがもうオシャレだし。
ライブハウスに立ち寄った後バーで飲む、なんてことしてるし。
ファッションもオシャレです。
地味といえば地味なんだけど、地味だからこその気取らないオシャレさがあるんですよね(それって最強だと思う)
ファッションに関しては、女性陣も本当にオシャレだと思います。
また、落ち着きがあるところも魅力的だと思います。
身形も話し方も落ち着いていて、雪が居心地が良いと言うのも納得です。
城定イハ
フレンドリー
イハは初めから青と話すときに時折タメ口を挟んでいたり、親しみを感じる関西弁(そう思うのは俺だけかな)を使っていて、青とイハが直ぐに打ち解けられたのは彼女のおかげだと思います。
終盤、映画に青のシーンがなかったことを抗議する田辺を前に町子が困っていた時に、「下手やったからですね」の一言で田辺を制止させたときは、本当に感心しました。
青とイハ
この二人は波長が合ってるというか、とにかくお似合いです。
でも、イハも言っているように二人は特別な関係性ではないからこそ、自分の恋愛話を赤裸々に話すくらいオープンになれたんだと思います。
距離感が近い相手だからこそ話しにくい、みたいなことってありますからね。
青とイハは初対面で距離感がある相手なのに、それで逆にオープンになれるなんて、人間は複雑です。
城定家での青とイハの会話シーンは、他に人がいなくてテレビが流れたりもしてないから、完全に二人だけの空間になっていて、雰囲気良すぎて多分俺の顔は紅くなってた。
気まずい
青は何かと女性と気まずい関係になっているなと思います。
雪にフラれたり、田辺に聞いちゃいけないことを聞いてしまったり、町子の期待に応えられなかったり。
中でも町子とは、気まずすぎて見ているのが苦しかった。
青の演技はとても使えるようなものじゃなかったので、それを使わない町子は監督として正しいと思うけど、やっぱり青は可哀想。
しかも使われなかっただけじゃなく、飲み会で町子たちが青のことで揉めているのが最悪。
それが青にも聞こえてて、俺が青の立場だったら泣く自信ある。
とはいえ、あそこで上手くできていたらイハと二人になることもなかったかもしれないので、そういう意味ではよかったのかも。
印象悪く映りやすい町子ですが、別に嫌な人ではないと思います。
青が握手を求められていると勘違いした時、服を受け取った後に握手してくれたし、飲み会にも招いてくれましたからね。
それと、青自身はこの件をそこまで気にしていなさそう。
笑える
本作は笑えるシーンも多いと思います。
特に、イハと二人で歩いていた青が、雪とマスターに遭遇し、そこにイハの元カレがやってくるシーン。
ここは一番笑いました。
青と雪、青とマスター、青とイハ、イハと元カレ、それぞれの事情を視聴者は知っているから、この勘違いによって生まれた修羅場が最高に面白いんですよね。
初対面の相手に口が悪くなるのも面白くて、こんなに言葉の槍があちこちに飛ぶ会話シーンはなかなかないと思います。
映像面でいうと、それまでは一つ一つが長かったカットを、このシーンではコロコロと素早く切り替えることで、カメラワークでも口論の慌ただしさを表現しています。