【ビバリウム】奇妙な映画が見たい人におすすめ【ホラー/感想レビュー】

あらすじ

小学校で教師をしている『ジェマ』は、恋人の『トム』と不動産屋を訪れる。
二人は営業マンに勧められた理想の宅地“ヨンダー”に行き家を内見していたが、その間に営業マンは姿を消してしまった。
あまり乗り気でなかったトムは「今のうちに帰ろう」と言い二人は車を発進させるが、道に迷ってしまう。

ポイント

整っている

本作の舞台となるのは住宅地です。
そこは同じデザインの家が等間隔に並んでいて、整った美しさがあります。
しかしその美しさが、同時に恐怖を与えています。

まず、同じデザインで並び方も均等のため、何処が何処だか分からなくなります。
住宅地自体が迷路のようになっているわけです。
そして一番怖いのが、住宅地が果てしなく広がっていることです。
少なくとも肉眼では住宅地の終わりが見えず、言うまでもなく絶望です。

整っているのは、空もです。
空には絵に描いたような綺麗すぎる雲が浮かんでいて、逆に違和感を覚えます。

少年

二人は見知らぬ赤ん坊を育てることになります。
赤ん坊は明らかに普通の人間ではなく、異様な早さで成長していきます。

赤ん坊は少年になると、わがままで騒がしくなります。
自分の望み通りに行かないと、騒音レベルの高音を響かせるのです。
その音は人間離れしていますが、不満を持った子どもが騒ぐこと自体は、よくあることですよね。
だから、少年に苛立ちを募らせていく二人を見ていると、子育ての大変さを感じます。

ない

娯楽

二人が閉じ込められた世界は、これといった娯楽がありません。
そんな状況で二人が見つけた娯楽が、車で音楽を大きくかけて踊ることです。
音楽をかけて踊るって普段なら大したことではないけど、二人の状況の分かった上で見ると、凄く特別なことに思えます。

二人と少年を除いて、住宅地に人は見当たりません。
つまり、抜け出せない謎の地で、謎の少年を育てながら、二人きりで生活しないといけないわけです。

他に人がいない抜け出せない地での生活といえば、無人島生活がありますが、二人の生活はそれとは違います。
何故なら、そこには立派な家があり、食料も支給されるからです。
無人島生活の場合は、目の前にある死から逃れるために奮闘しますが、二人にとって死は目の前にあるものではない。
そのため二人には、ただ生きるしかない、という辛さがあると思います。
環境も食料も生きる上では問題ない。
でも、他に人がいないし娯楽もないから、ただ生かされているような状況です。

亀裂

絶望的な状況に立たされた二人は、次第に険悪になっていきます。
それも、喧嘩するようなものではありません。
二人の間に会話がなく、それぞれ別行動をする、いわば家庭内別居のような関係です。

そうなってしまったのは、人がいない淋しさ、娯楽のない退屈さ、少年を育てることのストレス、などが原因だと思います。
これって、子どもを持つことで陥りかねない状況ですよね(子育てにストレスを感じるのも、子育てが忙しくて娯楽をする余裕がなくなるのも、頼れる人がいないのも、現実にあること)
そう考えると、二人は家族生活の負の側面を体験させられているように感じます。

二人が閉じ込められた世界や少年の正体については、解明されません。
一方、なぜ二人が赤ん坊を育てさせられたのかは想像できて、鳥肌が立つ終わり方になっています。